「あなたは体が弱いのよ。」
ポケモンセンターでジョーイにそう言われて育った。俺はこのカプセルの外に何があるのか、知らない。
俺の目の前をよく旅人が通るだけだった。俺を珍しそうにみる子供や、俺を見ては知らん顔する大人。色々な旅人をこの中で見た。
いつものように、今日も旅人がここを訪ねた。
その旅人は、天候が優れないからしばらくここで泊めてほしいとジョーイに話していた。ジョーイがそれを承知すると旅人は自分のポケモンを彼女に預け、少し疲れた様子でセンターの奥へと消えていった。
何時間かして戻ってきた旅人は、ジョーイからボールを受け取るとクスリと笑って中のポケモン達を放した。
旅人達は輪になって談笑した。よく見るこの光景に、今更羨ましいと思うことはなかった。
ふいっと旅人達から体を背けると外からカプセルをノックされる音が聞こえた。
にこにこと笑った旅人と目が合う。何やら口をぱくぱくさせ、俺に向かって話しかけているように見えた。
旅人と俺の間には分厚いガラスの壁が張ってあるため、旅人が俺に何を伝えたいのかわからなかった。
しばらく、何かを話した旅人は軽く手を振ると俺の前から消えてしまった。カプセルの向こうにぼんやりと見える時計の針をみると、どうやら夕食時のようだった。
ジョーイが俺に食べ物を運んできた。量は少なく、これで腹は満たされるのかと俺はいつも不思議に思った。もちろん腹は満たされずに、俺の食事はすぐに終わってしまった。
カプセルの中はなにもなく、退屈な時間を過ごした。あの旅人はいつまで飯を食ってるのかとか、もう俺の前には来ないのかとか、色々なことが俺の頭を駆け巡った。
旅人が食堂から出てきたのは、俺が飯を食べ終わってから一時間くらいしたころだった。
真っ先に俺の前まで来て、やはり口をぱくぱくさせてにこにこと笑った。旅人の他に、そいつに仕えているポケモン達も俺を珍しそうに見た。
どうやらそのポケモン達も俺になにか話しているらしく、残念ながらこちらまでその言葉は伝わらなかった。
旅人達はそれから三日間このセンターに滞在した。
天候は一向に優れず、旅人達がセンターでやることといえば、返事もできない俺にただひたすらと話しかけるだけだった。
俺は、よく飽きずに話しかけるものだとあきれていたが、二日目の夕方になると旅人達が俺の前に来るのを楽しみにしていた。
にこにこと楽しそうに話す旅人を気に入ってしまったのかもしれない。
四日目の朝になると旅人は荷物を抱えてセンターの出口でジョーイと話していた。
天気が良くなったのだろう、旅人はジョーイに深く礼をすると振り返り外の世界へと旅立った。
出口が閉じるとセンターの奥の方から爆発音が聞こえた。
何事かとジョーイとセンターのポケモン達が真っ先にそっちの方に走って行った。
俺はと言うと、特に何も気にせずその爆発音を背け、カプセルの端の方に体を寄せた。
「コンコン」
もう一度寝てしまおうかと目を閉じようをすると、カプセルをノックされる音が聞こえた。
そちらに目を向けると、さっき旅立ったはずの旅人が、初めてあった時と同じ、にこにこした顔で俺のことを見ていた。
また口をぱくぱくさせて俺に何かを伝えると、旅人の隣をふわふわと浮遊するポケモンがカプセルの周りをぐるぐると回りだした。
黙ってその光景を見ているとカプセルがキシキシという音を立て小さな亀裂を生んだ。
浮遊するポケモンが旅人に何かを告げると、旅人の隣に黙って立っていた四足の黒いポケモンがカプセルを噛み砕く、
パリンと音を立てて崩れたカプセルは、俺を隔離する道具ではなくただのガラスになった。
旅人が俺を抱き上げると、にこりと笑って俺の額に唇をあてた。
カプセルが割れる音を聞きつけたのか、センターのポケモンが奥から俺たちの方に走ってきた。
旅人は初めて顔をしかめると俺を抱えたまま出口まで走った。走って走って、センターが小さくなった。
俺は初めてみる外の世界に目を輝かせた。旅人は俺を大事そうに抱え、しばらくすると俺を地面に降ろした。
別の方向から旅人の仲間の他のポケモンが合流した。
旅人は手をふって
「バイバイ。」
といった。俺が初めて聞いた旅人の声だった。
旅人達は俺に背を向けるとそのまま歩いて行ってしまった。
何をしていいのかわからず、俺はそのままたちつくした。
気づくと旅人の後を追いかけていた。
旅人の長く伸びたマフラーをつかむと、俺に気付いた旅人は振り返ってまた俺を抱き上げる。
俺をきつく抱くと旅人はまたにこにこ笑って、
「よろしくね。」
といった。
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ポケモンセンターで貰ったヒトカゲがかがりです。