無性に山に登りたくなった。
とうやたちには悪いけど、今日はシロガネ山を登ることにした。
私の後ろをとうやは引っ付いて離れなかった。
ふもとの方は雪が積もっていて、とうやたちは少し歩きにくそうだった。
雪国出身の私としてはなんともなかったが、後ろのとうやは堪えたようだ。
マフラーをかけてやると少し笑ってみせて、また元気に歩き出した。
シロガネ山の道のりは私にしてみればたいしたことはなかった。
出てくるポケモンには少し苦労させられたが、とうやたちは平気な顔をした。
林を抜け洞窟を抜け、頂上の辺りはふもととは比べ物にならないくらいの気温だった。
最後を通り抜けると外は吹雪いていた。
「さすがに少し寒いわね。」
そうつぶやくととうやが背中の炎を燃え上がらせた。
あったかいとうやに抱きつくと、どうやら私を暖める為ではなさそうだった。
きっとこの見えない吹雪の先に何かいるのだろう。
山の頂点をキッと睨んだままのとうやは、少しわかりにくかったが、震えていた。
何かが私たちの前にいる。
とうやの震えが私に直に伝わりその見えない何かに私の足も震えた。
山の寒さとは違う、恐怖で足が震えるなんて起こりえるのだろうか。
私は息を飲んだ。
目を凝らしても、私の目の前の強い吹雪にかき消され、その何かはわからない。
それでも確実に目の前には生き物の気配がする。
足の震えが手にも伝わってきた。
寒さで体がどうかしたのだろう、唇が震え、周りの音は聞こえなくなって、足は震える代わりに動かなくなった。
それを察したとうやが私を抱きしめ返してくれた。
背中の炎を懸命に燃え上がらせ、抱きしめ返してくれた。
そうか、私にはとうやたちがいるんだ、大丈夫。
一緒に旅をしてきたんだ、なにが起こっても私たちで挑めばいいんだ。
その言葉がとうやから伝わってくるように私の頭に浮かんだ。
足は動き出し、手の振るえも収まった。
大丈夫、大丈夫。
一歩一歩ゆっくり足を踏み出す。
吹雪は強まる一方で、歩くのも困難になってきた。
しばらく歩いたところで影がひとつ見えた。
影を確認するようにまた一歩ずつ踏み出す。
頂点に立って恐れていた影の正体がわかった。
赤い帽子を深く被った男の子。
でも明らかに格好がおかしい。
こんな大吹雪の中人が半袖で立ってられるわけがない。
男の子は私の気配に気がつくと首をかしげて私をみた。
刺すような視線。
寒さと彼の視線で体が凍りついた。
こんな人始めてみた、そう思った時に私は思い出した。
彼の顔を私はみたことがある。
いつかシンオウで図書館に寄ったとき、
「三年前・・・」
古い新聞の記事に大きく取り上げられていた。
「行方不明の男の子」
マサラタウンで行方不明になった男の子の記事、その写真の男の子にそっくりだった。
目の前にいる彼は、写真を少し成長させたような感じだった。
それにしてもそっくりだ、彼がその男の子なのか。
私の独り言に彼はまた首をかしげた。
よくみると、モンスターボールを腰につけている。
トレーナーなのは間違いなさそうだった。
「バトル・・・」
「え」
彼の小さな声、吹雪で最後の方が聞き取れなかった。
「お前も挑みに来たんだろ・・・」
「お前もって・・・」
こんなところに私以外の人が何人も立ち入った?
彼は私の返事も待たずにボールを投げた。
勢いよくボールから飛び出したのはピカチュウ。
体に電気をまとわせ、全力で私たちの方に向かってきた。
あわてた私は鞄の中のボールをなげた。
「っ?!行けぱうち!」
咄嗟に出したぱうちにピカチュウは思い切りぶつかった。
顔を歪ませたピカチュウは、余裕の表情のぱうちに驚いたようだ。
反動でピカチュウは彼の足元に飛んでいった。
「一体なんだっていうのよ・・・」
彼がピカチュウを抱き上げると次のボールを取り出そうとした。
それを見逃さなかったぱうちが、彼をめがけ手持ちのボールをはじくように水を放った。
「!?」
彼の元へ走ると、またボールに手をかけようとした。
バトルをやめる気は彼にないようだった。
「くしっ!」
私も次のポケモンを出そうとしたときに、小さなくしゃみが聞こえた。
くしゃみをするような人は確実に一人しかいなかった。
「・・・油断しただけだ」
帽子を深く被るとふいと後ろを向いてしまった。
「あなた、やせ我慢とかはよくないのしってる?」
後ろを向いたまま黙りこくってピカチュウを抱く、さっきの攻撃で反動を受けたピカチュウは擦り傷を負っていた。
しゃがみこんで、鞄から傷薬をだす。
彼の手を引いてピカチュウを私の方に向けた。
傷薬を噴くとピカチュウはさっきより楽そうな顔を見せた。
それでも口を聞こうとしない彼に、
「お礼は、なんていうの」
と彼の帽子を取ってそういった。
しばらく返事を待っているとまた小さなくしゃみが聞こえた。
私は大きなため息をついて着ていたコートを脱いだ。
コートは彼のサイズにはもちろん合わない、少し小さかったけど無いよりましだと思って、彼にかけてあげた。
顔を覗き込むとさっきより表情が和らいだように見えた。
「そんな格好してるからよ」
「・・・・・・」
ぱうちを戻してとうやとさっき来た道を戻った。
ちょっと遅れて私の後ろをサクサクと雪を踏む音が聞こえた。
「・・・、ねえ」
「なあに」
振り返らずに、声だけで彼に返事を送った。
「これ、あんたの・・・」
「また返してもらうから、次までにあったかい格好してなさいよ」
後ろを振り返って彼の顔を確認すると、嬉しそうな顔をしたように見えた。
なにかを聞きたいのか、彼は口をもごもごさせた。
「あんた!名前は・・・」
ここにきて私の名前を聞いてきた。
私はというと、あきれてまた大きなため息をついてしまった。
「バトルを仕掛けた方が先に言うもんじゃないの?」
早足で彼の前までいって大声でそう言った。
驚いた彼は、眉間にしわを寄せ少し不快な顔をし、また帽子を深く被ると
「・・・レッド」
と無愛想に答えたのだ。
「そう、ちゃんと会話できるんじゃない、私はさくらよ」
にやっと笑って見せると彼は微笑して
「またくるんだろう?」と言った
「くるわよ、だって私それあなたに貸しっぱなしだし」
くるっと回って私はまた来た道を引き返した。
「またね、レッド」
「・・・ああ、さくら」
彼がどうしてあそこにいたのかはわからなかったけど、多分私と一緒でポケモンがすきなんだということはわかった。
ここにいたのにはなにか理由があるのだろう、もう少し仲良くなってから聞けばいいんだ。
山を登ってきたときのわくわくとは違う気持ちを背負って私は下山した。
「ピカチュウ対策はしっかりしたほうがいいわね、・・・くしゅん」
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レッドさんに会いに行く話
さくらが山にふと登りたくなる話。
シリアスになりきれないのはいつものことです。